濃厚豚骨スープはいったいどこにあるのか—Googleの知り得ないローカル

こんばんは。

最近どうも豚骨ラーメンが好きでして、豚骨ラーメン屋を見つけては味を試しているところです。しかしラーメン店主よ、らーめんは凝りすぎるといけない。「どこにもない、特製スープ!」みたいなのはラーメンから、かけ離れてしまうようです。ラーメンの範疇を超えないラーメンこそが、私のイメージできる美味しいラーメンなのであります。

f:id:mitarashita:20180403233734j:image

 

さて、ああこれは書くべきだなという執筆欲に駆られて書くテーマは、「いったい濃厚豚骨スープはどこにあるのか?」です。

 

もちろんそれは、豚骨スープそのもののことを言っているのではなく、濃厚豚骨スープみたいにこってり、旨味がつまっていて、喉元にぐっと残るようなネタ、経験、景色、ひと、食い物、宿のことを指すのです。中学生の国語の文法問題で言えば、これはとんでもない隠喩であって、絶対に見抜けなかったことでしょう。ははっ。

 

濃い豚骨スープを見つける前に、ありふれたとんこつらーめんを探してみるといいかもしれません。その対極にあるものが、濃厚豚骨なはずです。

 

世界中の隅から隅までインターネットで繋がる時代になり、誰もが途方にくれるほど膨大な情報にアクセス可能になりました。その規模はブログをこうして書いている今も、膨張し続けています。

 

一つこんなストーリーをお話ししたいと思います。僕が修学旅行で初めて京都を訪れた時のことです。修学旅行の日程のうち一日は、タクシーをチャーターして班で好きなところを回るというなかなか楽しい企画でした。(中学生当時の私は大変にひねくれていますので、楽しいなとは思っても表現はしていません)京都といえばやはりお寺が観光地ですから、どの寺を見るか班で話し合いました。「とりあえず有名どころは行きたい」という安直な考えから、誰もが知っている金閣寺竜安寺石庭を見ようということになりました。

 

金閣寺は楽しみの一つでした。「さぞ美しいんだろうな」とワクワクしていました。しかし、いざ金閣寺を目の当たりにすると何だか拍子抜けしてしまったのです。さすがに札幌の時計台よりは心が動きましたが、「なんか違う」というのが正直な感想でした。

f:id:mitarashita:20180403233813p:image

 

 

金閣寺の「なんか違う」ポイントはいくつかあります。一つ目に、その迫力です。観光客は池(と呼んでいいんでしょうか)を挟んで向こう岸に金閣寺を望むようなロケーションです。よく写真で見るような迫力はいまひとつありません。二つ目に、金閣寺を取り巻く雰囲気です。金閣寺には、たくさんの観光客がおり、好き放題に写真撮影をし、日本語以外の言葉もかなりのデシベルで飛び交っています。風流なんてどこにもありません。ちょうど、渋谷の「明日の神話」みたいな感じです。あれは素人目でもすごい絵だと分かるのに、あんなところにあるもんだからみんな見向きもしません。かくいう私も、「あっ岡本太郎、ばくはつばくはつ〜」と思いつつ急ぎ足で銀座線に乗り換えるのです。

 

この話を通してつまり何が言いたいかというと、人はある情報について知りすぎると、それが間接的体験だったとしてもあたかも自己が直接体験したように錯覚し、本来直接体験をした際に得るはずだった感動の度合いが下がってしまうということです。

 

では真逆の例をお伝えしましょう。私が初めて秋田県五城目町に行った際、行く先もよく分からず連れられたのは「森山」という山でした。東京から秋田まで高速バスに実に10時間揺られ、疲れ切った所で大学教授のありがたーい英語講義を受け、居眠りをしそうになったところで「しょうた!What do you think?」と聞かれ青ざめたのが午前中でした。ですから、もう山に対してのワクワクなど一切なく、もちろん森山など知る由もなく(町民の皆様、お許しを)途中の狭い山道で脱輪するんじゃないかとヒヤヒヤしただけでした。

 

ところがどっこい、山頂まで来てみると今までに経験したこともないような感動が訪れたのです。あまりの美しさに惚れ惚れしたのを覚えています。もしこれが、「そうだ五城目にいこう」なんてキャッチフレーズで、my favorite thingsにのせた森山からの景色のCMを何百回と見ていたとしたら、この感動は訪れることがなかったと思います。

 

f:id:mitarashita:20180403235928j:image

(この写真はあまり見ないように。感動が薄れまさ)

 

さぁ2つのストーリーを通して、だんだんと濃厚豚骨スープがどこにあるのか見えてきました。Googleで検索した時に、何百件とヒットする情報に人が動かされることはありません。もし、金閣寺を見に行った時に、僕が知らない情報とともに見学をしていたら感じ方も変わっていたと思います。

 

大切なのは、「検索しても出てこない」ところです。今日では、Googleがあんまり知らないことこそ、旨味がギュッと詰まって、ワクワクするとっておきの情報なのです(メディアへの露出が極端に多くないもの)。ネットに載っていないんだったら、自分の足で行くしかありません。誰も写真をアップしていないなら、自分の目で確かめるしかありません。汗水垂らして、人間臭く得た情報ほど、心に残るものはないのです。

 

そんな情報がゴロゴロ転がっているところこそ、「ローカルだ!」と私は思います。ローカルは何も東京でないということではありません。東京にだって、Googleが知らない情報がたくさんあります。そんなローカルこそ、これからどんどん面白さが発掘されるフィールドではないか、そう思うのです。

 

ローカルでは、自分が今まで聞いたことも見たこともないことに溢れています。そんなワクワクする空間は、娯楽飽和の今日なかなかありません。作ろうと思っても作れないのです。

 

そう、濃厚豚骨スープは意外にもローカルにあったのでした。灯台下暗し。めでたしめでたし。